次の週の日曜は、ティエリアがニールの家に遊びにきた。 一軒家で、男やもめの一人暮らしだが、家の中は綺麗に整頓されていて、人が住んでいる匂いのする暖かい部屋ばかりだった。 「これ・・・・もってきたけど。口に合わなかったら食べなくてもいいから」 持っていたカバンの中から、ラップにくるんだちょっと歪んだ形のくっきーを取り出して、溜息と一緒に、それをリビングルームの机に置いた。 アレルヤに手伝ってもらったけど、焦げまくったり、形がゆがみまくりで失敗した。でも、失敗作でもニールなら貰ってくれると思った。その推測はあたりだった。 ニールは嬉しそうに、ラップを開けるとクッキーを口いっぱいにほうばった。そして、一言。 「芸術的な味だ」 「どうせ美味しくないですよだ。ふん」 「愛情だよ、愛情。味とかそういうの、関係ない」 「キザったらしい」 でも、その心遣いが嬉しくもあった。 「僕には・・・昔、婚約者がいたんです。5年前に、僕を庇って、交通事故にあって死んでしまいました。それからずっと考えていたんです。僕に幸せになる権利なんてあるだろうかと」 ニールは、無言でティエリアの髪をすいた。 「あるよ。死んでしまった婚約者の子も、きっとティエリアの、幸福を天国で祈ってるはずだぜ?」 「そうでしょうか?」 「そうに決まってる」 断言して、それから頬にキスされる。それがむず痒くて、ティエリアはいつの間にか長く伸びてしまった髪を揺らした。 「本当に、僕とちゃんと付き合ってくれますか。僕は、あなたのことが・・・・。多分、この感情は嘘じゃない。あなたといると、まるで陽だまりにいるみたいだ。ニール、あなたがいないと、寂しいと感じる。僕は、あなたのことが・・・」 だんだん小さくなっていく声。 「好き、なんです」 「俺も好きだ。愛してる。だから、婚約しよう。ちょっと待ってな」 ニールは立ち上がると、2Fにあがってがさごそと何かを探しているようだった。そして、降りてきた時には、その手には小さな金色の指輪があった。 「おふくろの形見で悪いけど。講師なんて発給だしな。これ、対になるやつないけど、婚約指輪のかわりにやるよ」 「形見?そんな大事なもの!」 「いいから。これは俺の気持ちなんだって。もらってくれ」 強く押されて、ティエリアは首を縦に振った。 「はい・・・・」 それから、その日は借りてきたDVDを二人でずっと見ていた。恋愛もので、ラブシーンがたくさんあった。 「あなたは・・・・その、僕にこういうことしたいと思ってます?」 「今のところ思ってない。そういうのは、大切だから。ティエリアのこと、大事にしたいんだ」 安堵まじりに、けれど少し落胆した。 魅力がないのだろうかと、不安にかられたが、今までのニールの行動を見る限り、誠実そうなので軽くSEXなどをするタイプではないと思われた。 「キス、していい?」 効かれて、真っ赤になった。 「・・・・・・・・・・うん」 頷くまで、時間がかかった。 「ん・・・」 振れるように唇に指を這わされて、それからニールの唇と重なった。 「んあ・・・・」 濡れた声が、艶やかにお互いの鼓膜を刺激する。 大人のキス。初めてのキスは、飲んでいた紅茶のダージリンの味がした。 「もっかいしてもいい?」 「はい」 もう一度、唇を互いに重ね合わせる。自然と口を開けたティエリアの歯茎を刺激するように、ニールの舌が動き、舌同士を絡み合わせていく。 銀の糸を引いて、ニールの舌が引き抜かれる。 とても恥ずかしかった。 これ以上は、とてもできそうにない。 「僕は、今日はこれで」 「ああ、送ってくよ」 ニールの車に乗って、ティエリアは自宅まで無事に送り届けられた。ニールは車をもっていた。少し年代もので、古そうだったけれど丁寧に使い込まれているせいか、どこにも不調はなかった。 車。 そのキーワードに、胸が冷えた。 婚約者だったリジェネは、ティエリアが車にはねられそうになったのを庇って死んだ。 ティエリアは、天国にいるだろうリジェネに懺悔する。 君以外を好きになってしまった。多分、愛しているんだろう。これは愛という気持ちなんだろう。ごめん、リジェネ・・・・・・。 無事に家まで送り届けられて、アレルヤが夕飯に誘ったのだけれど、用があると言って、ニールは帰ってしまった。また明日になれば、学校でニールに出会える。学校に通うのが、楽しくなっていた。 NEXT |