季節は春。 桜の花見シーズン真っ盛りの時期。 ユーリとアッシュとスマイルは、久々のオフとあって、花見に出かけたのだが、どこも混んでいていた。特にユーリの苛立ちはすごく、ピクピク動く長い耳と、たまに羽ばたきをする真っ赤な深紅の翼で、機嫌の悪さが推察できた。 「帰ろうか」 ユーリは、桜を見上げてそう言った。 「でも、ここまできたのにもったいないっす」 「でもさ〜。どこもいっぱいだよ〜。こんなにこんでるとこで花見なんていやだよね〜」 「違う場所を探そうっす!」 「もうめんどくさくなってきた。屋敷に小さな桜の木が一本あったな、そういえば。花を今頃綺麗に咲かせているだろう。それでも見ながら、酒を交わそうか」 「お、さんせ〜!たまには真昼から酒もいいよねぇ〜」 「それでほんとにいいんすか?」 「もうそれでいい」 綺麗に散っていく、ひらひらと花びらがユーリの髪にひっかかる。それをアッシュが器用につまみあげて、綺麗に爪の整えられたユーリの手の平に乗せた。 「もう少し、この景色を見ていたいっす。我儘だけどいいっすか?」 「もう少しだけなら、な」 ひらひらと、風が吹いてたは桜吹雪が舞い散る。 その下に佇むユーリは、まるで世界から隔絶されたように幻想的に見えた。 ひらひら。 ひらひら。 桜は散っていく。ユーリは黙したまま、桜の木を見上げる。 「帰るぞ」 「待ってくださいっす!」 「まってよ〜〜〜」 ユーリは、翼を広げた。 「あ、ずるい!自分だけ飛んで帰るつもりだね〜?」 「その通りだ」 「待ってくださいっすー!」 優雅に深紅の翼を広げるユーリは、メルヘン王国のヴァンパイア種の中でも上位の貴族であった。その優雅さが行動にも見て取れる。 どこまでも美しく、そして少し我儘。 宙を蹴ろうとするとろこを、アッシュに抱き留められた。 「ん」 触れるだけのキスをされて、翼を折りたたむ。 「一緒に帰るっすよ。みんなで」 「ふん」 ユーリは少し頬を染めてから、翼をもう一度広げ、また折りたたんだ。 「今回だけだからな」 照れているのを隠しているのはばればれだ。 「は〜。ラブラブなのもいいけど、僕がいるのも忘れないでよ〜〜」 スマイルは、散っていく桜の花びらを手で受け止めて、ユーリとアッシュを見てから、もう屋敷に一人で帰りたい心境になるのであった。 |