それはそれは、もう十年以上も前のお話である。 「へ〜、それでそれで?」 アレルヤはマリーという女性と結婚し、家を出て行った。その二人の間には子供ができて、その子供が遊びにきて、話を聞いていたのだ。 いつも遊びにくる刹那も、同級生のフェルトと結婚して自立していった。 久しぶりに、アレルヤと刹那、それにティエリアと、順調に回復して臨時ではなく、ちゃんとした教師になったニールの四人が、久しぶりに揃ったのだ。 「ママは、ティエリアちゃんみたいな恋はしなかったの?」 アレルヤとマリーの子供が、二人を交互に見て不思議そうにしている。 「いや、僕たちは大学のキャンパスで知り合ったから。そういうのはないなぁ。ごめんね」 「アレルヤとはもっと早くに知り合いたかったわ」 マリーが、太陽のような温かい笑みを零す。 「お父さんは?」 刹那とフェルトの子が、父である刹那に訪ねてみるが、期待していたような答えはなかった。 「でも凄いね。トラックにはねられて、一時は危篤状態に陥って、心肺停止状態にまでなったんでしょ?でもそれでも生きてるってすごいね!」 刹那とフェルトの子供が、きゃっきゃとはしゃいで走り回る。 「確かに、あの時は死ぬかと思った」 今では、思い出の一つ。 「あなたが生きていて本当によかった」 今月で臨月を迎えるティエリアは、大きくなったお腹をさすって、ニールに微笑みかけた。 ティエリアはちゃんと大学も出て、それから正式にニールと結婚し、すでに一児の母である。今そのお腹には、女の子と分かった赤ちゃんが宿っている。 順調にいけば、来月に出産となる。 「あ、蹴った」 「お、ほんとか!?」 ニールが、嬉しそうにティエリアのお腹を手で触った。 「ほんとだ、蹴った!これはきっとじゃじゃ馬姫が生まれるな!」 「そうかもしれませんね」 「ママーだっこしてー」 ニールとティエリアの第一子である男の子が、だっこをせがんできたが、父親であるニールに抱き上げられた。 「やだーママがいいの!」 「ママはお腹が大きくて大変だから、俺で我慢しなさい」 「パパ、僕大きくなったらママと結婚するんだから!」 「ティエリアは俺のだからな!」 ぺっと、子供を放り出して、ティエリアのほうに近づくと、触れるだけのキスをした。 「あーもう、子供に目の毒だから。そういうのはいない時にしてください」 フェルトが苦笑した。マリーも同じように苦笑する。刹那とアレルヤは、ティエリアとニールのラブラブぶりに、溜息をついている。 「ほら、いちゃつくのはいつでもできるでしょ。もっとお話ししましょう」 そこは、ティエリアの家だった。 マリーがアッサムの紅茶を入れてくれて、みんなに配ってくれる。 カップを傾けて、中身を飲むと体全体が温まってくれる。 今、季節は冬だ。 そう、雪が降っている。 そんな季節に、ニールは事故にあい片目を失った。リハビリにもたくさんの時間を費やした。長かった病院暮らしも終わって、今はティエリアの家にニールは住んでいた。 自分の家は処分して、子供たちの教育費に充てるつもりである。 「愛しています。出会いは突然ですね、僕たちは」 「そうだな。ティエリアが線路から落ちなかったら、きっと出会えてなかったかもしれない。出会いは突然に、ってやつだ」 ニールが、紅茶の入ったティーカップを手にもって、中身を飲み乾した。 「おかわりはいかが?」 マリーの言葉に、皆がそれぞれの想いを胸に頷く。 出会いは、突然に。 リジェネのことを忘れたわけではない。だが、こうしてニールと共にいることが、亡くなったリジェネへの贖罪に感じられる。 今、幸せの絶頂期だ。もうすぐ女の子が生まれる。二人目の子供だ。 ニールは子供はたくさん欲しいと言っていた。多分、四人くらい産むかもしれない。出産の痛みは、男では耐え切れない気がすると、ふとティエリアは思う。 死ぬほど痛い思いをして、輝ける命を手に入れるのだ。女とは、そうできている。 「ニール、まだこの子の名前決めていませんね。なんてつけましょうか」 「そうだなぁ・・・・・・」 それはそれは、少し昔のお話。 ニールとティエリアの、愛を育む小さなお話であった。 出会いは突然に。 もしかしたら、あなたにも、こんな出会いが突然訪れるかもしれませんね。 |